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熊野簡易裁判所 昭和44年(ろ)9号 判決 1969年11月25日

被告人 奥村多聞

昭二四・八・三〇生 自動車修理工

主文

本件公訴を棄却する。

理由

本件公訴事実は、「被告人は昭和四四年五月二日午後二時五〇分ごろ、奈良県御所市国鉄甲鳥口踏切附近道路を、普通貨物自動車(奈四ね七三―六七)を運転し、右踏切を通過するに際し踏切の直前で停止せずに進行したものである。」というのであつて、右は道路交通法(以下単に法という)第三三条第一項、第一一九条第一項第二号、第一二五条第一項別表第二項に該当するが、被告人は、たまたま、右行為時において少年(一九年八月余)であつたので、法第一二六条、第一二七条の告知又は通告の手続を経ることなく、少年事件として家庭裁判所に送致され、家庭裁判所の昭和四四年七月二三日付決定により、刑事処分相当として検察官に送致され、そして、被告人が成年に達した後である、昭和四四年九月三〇日本件公訴が提起されたものであることは、本件記録によつて明白である。

そこで、本件の如く家庭裁判所が少年法第二〇条により、刑事処分相当として、事件を検察官に送致した後、被告人が公訴提起前に成年に達した場合、検察官は法第一二七条の通告手続を経ることなく、公訴を提起できるかについて検討する。

少年法第四五条の規定からは、必ずしも明らかではないが、しかし、同条は検察官に送致された事件が、その後において訴訟条件欠缺の事実が判明した場合にまで、そのまま検察官に公訴提起を義務づけているものとは考えられないところ、本来成年の反則事件については、法第一二七条第一項、又は第二項後段による通告と、第一二八条第一項に規定する期間の経過とが、公訴提起の要件であることは、法第一三〇条に明定するところであつて、しかも、本件においては、同条各号の除外事由に該当する事実は認められないのであるから、先ず被告人に反則金を納付して刑事処分を免がれる機会を与えることが相当であると解する。このことは、反則者から少年を除外していない法第一二五条の規定、および警察官は反則行為を現認した場合だけに限らず、反則者があることを認めた場合は、法定の事項を告知しなければならないとする法第一二六条の規定の趣旨からも妥当なものと解されるばかりでなく刑事処分を免がれる機会を定めた法規の適用は、明文の除外規定がないかぎり、できるだけ一律に適用することが、法の公平平等の精神に適合するものと考える。

そうだとすると、公訴提起前に成人に達した被告人に対して、反則通告手続を経ることなくなされた本件公訴の提起は刑事訴訟法第三三八条第四号の公訴提起の手続が、その規定に違反したため無効である場合にあたるというべきであるから、主文のとおり判決する。

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